「あまりにまじめすぎた野次馬」石子順造
コピー、パロディ、キッチュ、悪という副題に惹かれて、成相肇(なりあい はじめ)の『芸術のわるさ』(2023年 かたばみ書房合同会社)を読む。このひとの名前ははじめて聞くが国立近代美術館の主任研究員だという。予想どおり石子順造のことが書かれている。アカデミーの人が美術批評からはみ出してた。「あまりにまじめすぎた野次馬」として石子順造のことを評している。2011年に府中美術館で開かれた「石子順造的世界 美術発・マンガ経由・キッチュ行」展を纏めたひとらしい。
しかし「総体としえ際立った業績はない」とやや突き放すような評価をしている。マンガや劇画、演劇、映画のメディアや、信仰と日常のいとなみに芸術との接点を見出す視点は先駆的であり、貴重なものだったろう。大衆文化のなかに近代が削ぎ落としてきたものを発見し、美術の枠からはみ出しいるものから発見してのがキッチュだった。
しかし、美術評論なり、伝統的な美術概念の世界からはみ出すものに着目するほうが面白いということもある。たとえばヒーリング・スピリチュアル系のクリスチャン・ラッセンという画家がいるが、若者の間で一時期流行したが、画壇や美術の世界では無視されたという現象があった。この問題は従来の枠組みでは扱われないだろう。じっさい、近年の美術評論なり、批評の面白いものは木下 直之(『美術という見世物 』ちくま学芸文庫)だったり、編集者の都築響一(「秘宝館」「ラブホテル」青幻舎 2023)など美術から逸脱したり、美術の境界や枠組みを捉え返すような仕事をしているひとのほうがだいぶ刺激的だし、可能性があるのではないだろうか。

『芸術のわるさ』(2023年 かたばみ書房合同会社)

石子順造的世界 美術発・マンガ経由・キッチュ行(美術出版社 2011年)